月別アーカイブ: 2023年5月

モニターライトを買った

BenQ ScreenBar Plus

モニターライトなんていらないだろうと思っていたがふと思い立って買ったら存外によかった。もっと早く買えばよかった…

買う前の印象

モニターの上辺に設置する洒落たライトがあるらしいということは知っていたが、もうひとつ必要性を感じていなかった。デスクの前ではずっとモニターを見ているし、モニターは発光しているからだ。モニター画面が光量の問題で見づらいと思ったことはなく、位置的に太陽光などの映り込みも気になったことはない。

商品のイメージ映像を見てもモニターの前で書き物をしたり本を読んだりするシーンを想定しているように思えた。自宅のモニター前でそういうことはほとんどしないので、在宅勤務の環境改善の中で一度検討したものの、冗長だろうと考えてドロップしていた。

また、商品の情報を得るためにネットで情報を探したりもしたが、紹介動画にやたら商材として取り上げられている感じが鼻についてあまり積極的に検討しなかった。単なるデスクライトとはきっと違う効用のある製品なのだろうと想像はできるが、体験したことのない製品は必要性も理解しにくい。

買った理由

そんな風に敬遠していたのだが、最近オフィスで卓上にデスクライトがある環境で作業する機会があり、はじめはつけてもつけなくてもどっちでもいいやと思っていたもののの、せっかくの備品なので貧乏性からつけてみたところ思った以上の快適さを感じた。それでライトの効用というものを考え直すことになった。

なにを快適に感じたのだろうか?

まず思い違いをしていた点として、モニター自体の見やすさとはこのライトはあまり関係がない。前述した通りモニターは発光しており、ライトがあろうとなかろうとモニターの見やすさは大して変わらない(よほど強い光源がモニターに映り込んでいる場合などは効果があるのかもしれないが)

それではなにが変わるかというと、モニターの画面とその周辺を視野が往復する際に、明るさの差がなくなるのが大きいのではないかと思い至った。別にモニターの周辺を注視するわけでもないのだが、ふとキーボードに目をやったり、卓上の iPhone に手を伸ばしたりすることがある。今までは気づかなかったが、意識してみると僕の目はそういう明るさの違う空間に焦点を当て直す際に疲れを感じているように思えた。ライトがあるとその差がなくなり、細かいストレスが軽減されるように思える。

それで(自宅の仕事環境の最適化を習慣としている自分としては)試してみてもいいだろうと考えた。

商品選定

いくつか選択肢はあるようだが BenQ の製品がもっともメジャーなようだった。大きな不満意見も見当たらなかったし、これでよいだろう。グレードごとに3つの製品があるのでこの中から選ぶことにした。

  1. ScreenBar 無印(リモコンがない、ライトと操作ボタンが一体)
  2. ScreenBar Plus(有線リモコンあり)
  3. ScreenBar Halo(無線リモコンあり)

大雑把に整理するとこうなる。
卓上面積を使いたくなかったし、値段も上がるのでリモコンは省こうかと思ったのだが、無印を選ぶと光量の操作がボタン式でデジタルな段階的な調整であることが気になった。Plus, Halo のリモコンはアナログなダイアル式なので無段階に光量調整ができそうだ。頻繁に変更するものではないが、基本的な機能なので明るさ調整はできた方がよいだろう。

とはいえそれほど頻繁に調整するものでもないし、机の奥に追いやっておけばいいので、バッテリー管理の手間と金額増を考慮して ScreenBar Plus にした。ただ、 Halo は湾曲モニターに対応しているらしく、それは今後のことを考えるとすこし気になった。今正面には平面モニターが置いてあるのだが、いずれ湾曲モニターを使うときがくるかもしれない。

まあそのときはそのときに考えよう、ということで ScreenBar Plus を発注した。

買ってみて

セットアップは非常に簡単だった。モニターの上に乗せるだけで、重みもあって安定する。一週間ほど使ってみて、予想通り眼精疲労がやや低下したように感じた。

また、使う前に想定していなかったのだが、卓上が明るくなったことでデスクに向かって作業をするという行為の敷居が下がったように感じた。しっかりと腰を据えてそこにいつづけられるというか、子供の頃にデスクライトのついた学習机に向かい合っていたときのような座りのよさを感じる。学生時代の学習環境によるパブロフの犬かもしれないが、思った以上に集中力に影響があった。

優しい光にできるし、無段階に光量調整できるのもよかった。ただ、やはり頻繁に光量を変更するものでもないので、無印でもよいかもしれない。有線リモコンのケーブルは可もなく不可もなくと言ったところだが、当然ながら取り回しが必要になるのでないならない方がよりよいであろう。まあでも電源オンオフのたびにモニターの上を触るのは手間にも思えるし、無線リモコンのバッテリー交換の手間も面倒なのでここはトレードオフになる。

そういえば以前デスクライトを試してみたときは光が片側からしかあたらない(左か右から照らすタイプの製品だった)のがネックだった。その位置だとどうしても逆側の手元に影ができてしまい、そうするとそこに明度の差が生まれるので目に負担がかかる。なんなら明度差が強調されるような感じもあって使わなくなった記憶がある。しかしこの真上から照らしてくれる角度であれば影ができない。もちろんモニター自体の見え方には影響しない(光が真下に落ちるからか)なるほどここが替えのきかない要因であろう。

たかがデスクライトだろうと思って購入を見送っていたが、やはり思い込みにとらわれず試してみると幸せになれることはある。買ってよかった。

HHKB Pro を買った

PFU キーボード HHKB Professional HYBRID Type-S 日本語配列/白

 

職業柄、毎日触るキーボードは投資対効果が高いと考え、もう10年以上前に Realforce を買ってずっと使っている。自宅用と会社用に2台同じものを買って同じ環境でタイピングができるようにした。安い買い物じゃない。でもその甲斐あってタイピングするだけで楽しく感じられる環境ができた。4,000日以上叩き続けて特にトラブルもない。いい買い物だった。

安物買いの銭失いという言葉があるが、買い物は妥協してしまうと「もしかしたら他にもいい製品があるかもしれない。僕は人生の時間を非効率に使い続けているのかもしれない」という疑問を抱き続けることになり、折にふれて買い換えの比較検討をやり始め、無駄な時間とエネルギーをもっていかれることになる。その観点から見ても Realforce は十二分に仕事をしてくれた。これまでの間、キーボードを買い換えた方がいいかもしれないという考えは一度も僕の脳裏をよぎらなかった。

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しかしコロナ禍によってワークスタイルが変わり、勤め先がフリーアドレスになったことによって、キーボードを自席に据え置きにするという選択肢がなくなってしまった。まあまだ在宅で仕事をする時間に比べてオフィスに滞在する時間の方が短いし、そのオフィスにいる時間も大半は会議に出席しているのでそこまでタイピング作業の比重は大きくないだろうと考え、手軽さを優先して Macbook Pro のキーボードをそのまま使っていた。

それはそれで大きな問題はなかったのだが、タイピング自体の快感が薄いことは長期的に見てマイナス要因であろうという考えがずっと頭の片隅にあった。僕の経験からくる自論に、優秀な人間は頻度の高い単純作業こそ徹底的に効率化を突き詰めるというものがある。タイピングやブラウジングはその代表的なオペレーションで、これが最適化されていないという事実はどのような視点をもってしても正当化することが難しかった。

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また、これはあまり声を大にして宣言するものでもないのだが、高級なキーボードをわざわざ買ってきて使っている姿というのは時として仕事の成果に勝るとも劣らないぐらい自身の社会的な印象を左右するのではないか、という考えもあった。たとえばあるシステムの設計を提案する際に(それがまったく同じ意見なのであれば)支給されたキーボードになにも疑問をもたずに仕事をしている人間と、「自分が使うキーボードとはこういうものなのだ」という確固たる視点をもった人間がいるとしたら、後者の意見の方が納得しやすいのではないか。

自己ブランディング。

くだらないといえばくだらないし、本物のエンジニアには通用しないだろう。でも仕事で出会うのは必ずしも本物のエンジニアばかりというわけではないし、こういうわかりやすい飛び道具も一定の効果が見込めるのではないか。本物と戦う時は内容で勝負すればいい。そこに注力するためにも覇気で片付く問題は覇気で片付けてしまおう。

ただ、さすがに有線で大型の Realforce を毎日会社のロッカーから引っ張り出すのは手間がかかりすぎる。それで久しぶりにキーボードの選定という一大プロジェクトに乗り出すことにした。

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選定の要件としては以下になる。

  1. タイピングが今使っている Realforce 並に気持ちよいこと
  2. ワイヤレスであること
  3. 持ち運びしやすいこと
  4. ベーシックな形であること
  5. 継続的に販売されており買い換えの際に入手しやすいこと
  6. 日本語配列があること(スペースキー左右で IME の ON / OFF が可能)
  7. 無刻印キーがある、もしくは印字がやかましくない

Realforce からもワイヤレスの商品が出ているのだが、サイズがそこそこ大きいためフリーアドレスの席移動にはやや手軽さにかけるように感じた。また、初代の Realforce ユーザである自分としては、この十数年の間にモデルチェンジしてしまっていて同じ型のものが手に入らないことに不満があった。この型でワイヤレスの物があればいいのだが…

となると必然的に HHKB Pro が選択肢に入ってくる。ワイヤレスで、Realforce よりもコンパクトで、継続的に同じ型のものが販売され続けている。ここまでは問題ない。ただ、懸念事項としてキーの並びが Realforce よりもやや独特なこと、キータッチが一律同じ荷重(45g)であることが気になった。

キーの並びについては昔 HHKB Lite 2 を使っていた時に左下の修飾キー周りがやや特殊だったと記憶しており、これに慣れると他のキーボードを使いにくくなるデメリットを感じていた。 Control キーが a の横にあるのは大変素晴らしいのだが、 CapsLock を入れ替えてしまう術はあるので実用性としてはあまり大きな効用はない。くわえて PageUp, PageDown, Home, End が独立キーとして存在しないのはキーボードから手を放している時に片手ですこし操作するのに不便なように思えた。ただこれはコンパクトさとトレードになるので仕方ない。

また、Realforce のキー荷重は指の位置によって異なるモデルが提供されているのが素晴らしく、人差し指側の中央のキーは押し込むのに力がかかる(45g)が、それに比べて小指側の外側のキーは軽い力で押し込めるようになっている(30g)これはとても理にかなっており、手指の健康にも一役買っているように思えた。 Emacs バインドでカーソル操作をする自分にとっては Control キーの荷重は小指への負担に直結する。ただ HHKB にも独特の打鍵感があり、タイピングの快適さで一概にどちらが良い悪いというものでもない(欲を言えば Control キーを小指で押し込む力をもう少し軽くしてもらえると負担が減るのだが)

ということで、懸念事項については目をつぶれそうであること、 Realforce に比べると手ごろなサイズでワイヤレスであること、あたりを理由に購入に踏み切った。 Realforce もまあ十年以上使ったし、たまには変えてみるのも気分転換になるだろう。

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買うことにはしたのだが、次なる検討事項として色と刻印の問題があった。

まず決めていることとして、配列は日本語配列にすること、今回はせっかくなので無刻印キーにすること(これほど見る者にわかりやすく訴求するデザインがあろうか)が挙げられた。ただキートップについてはあとで無刻印に換装もできそうなので、判断を購入後に先送りにすることもできそうだ。ということで、不可逆な選択としては色ということになる。

僕は持ち物一般を基本的に黒で選ぶし、なによりも墨の HHKB の放つ圧倒的な玄人オーラは今回の要件にもマッチしていると考えて、こんなもん墨一択だろう…と考えていたのだが、デフォルトの白(グレーっぽい白の方だ)もとてもベーシックなキーボード然としており好ましく思えてきた。学校の計算機室にとりあえず備えつけで置いてありそうな、一昔前のそっけないデザイン。そういう視点で見ると印字もそのベーシックなたたずまいに一役買っている。あとで無刻印に変えれば二倍楽しめそうだ。

そう思って墨を見直すと、ただでさえ洒脱な HHKB にさらに墨をセレクトするというのはやや印象が強すぎるように感じた。あとユーザが多い。観測範囲の HHKB ユーザは墨が多数派のようだし、これでは自己ブランディングという目的から逸れる。

そもそも HHKB という存在自体が「高級」「一家言あり」「プロフェッショナル」というような主張をもっているため、色はすこし外してベーシックな素っ気ない色にするのは悪くない選択だろう。 HHKB 本体がもつオーラと無刻印キーがあれば主張としては僕には十分だ。さらに言うならあえてそっけなく白を選ぶことで他の墨ユーザメタとして機能するのではないか。つまりキーボードに興味ある人間とそこまで興味ない人間という2つの異なる層それぞれに覇気を放つことを可能たらしめるのではないか。

そのように考えて色は白にした。

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で、買ってみて、おおむね期待通りの効果が得られた。

コンパクトだし、ワイヤレスのキーボードというのはいいものだ。Realforce よりも手指の負担はあるような気がするが、単なる効率を超えてタイピングが楽しく感じられる。大げさに言えば楽器を演奏しているような楽しさが日常の作業に加味される。

満足ではあったが、買ってから気になったところは以下。

  1. 高い(本体¥36,850円、パームレスト¥5,280円、スマートケース2¥2,860円、キーボードルーフ¥4,400円、バッテリーのエネループプロ¥2,182円、充電器¥3,217円……合算はしない)
  2. 高い割に付属品の機能が弱く感じる(ルーフは載せるだけでカチッとはまるわけではない。スマートケースはけっこうギリギリで入れるのにそれなりに苦労する)
  3. 電源がトグルスイッチなのが精神衛生上よくない(30分で勝手に切れるし電源オンオフを示すランプもないので見た目で状態が判断できない。とりあえず30分で勝手に切れないように設定した)
  4. Windows と Mac に繋ぎかえるときに毎回モード変更が必要(どちらか一方であればモード固定してしまうのだが…)
  5. やはり Control キーの荷重が負担だ(Emacs は小指に負担がある。これは Realforce にアドあり)

と、気になるところも書いたが気分転換にはちょうどよい買い物だった。タイピングのモチベーションが上がるというのはよいことだ。 iPad と組み合わせて使えるのもいい。

ただ想定していた通り(そして世間的にも2つの製品が肩を並べているという事実が示す通り) Realforce の完全上位互換というわけにはいかなかったので、そのうち自宅の据え置きは Realforce に戻すときがくるかもしれない。僕は初代の Realforce の、キーボードのイデアとでも呼ぶべきベーシックなフォルムが好きだ。据え置きで使うならサイズが大きいこともメリットに働くし。